2025年4月、育児・介護休業法が改正されます。
今回は、その中でも「仕事と介護の両立」(介護離職防止と両立できる職場つくり)についてわかりやすく解説します。
2024年11月に追加掲載された厚生労働省のQ&Aも踏まえて、企業が措置を講じる際の注意点も交えてご案内します。
なぜ仕事と介護の両立支援?
団塊世代が後期齢者に入り、職場では介護に直面するビジネスケアラーの増加が予測されています。
両立しづらい職場環境や知識がないことによる介護不安、介護負担などにより、介護離職や職場の生産性低下につながり、その経済的損失は日本全体で約9兆円になると試算されています。
従業員が仕事と介護を両立できる職場づくりは、従業員のキャリア継続に加えて、企業の経済活動においても重要です。
2025年4月 育児・介護休業法、介護に関する法改正の概要
2025年4月の法改正において、介護に関する内容は下記の5つです。
- 介護離職防止のための個別周知と意向確認(義務)
- 介護に直面する前の早い段階(40歳の年)で情報提供(義務)
- 仕事と介護の両立のための雇用環境の整備(研修の実施、相談窓口の設置等)(義務)
- 介護休暇を取得できる従業員の要件緩和
- 介護する労働者に対して講ずる措置にテレワークを追加(努力義務)
育児・介護休業等に関する規則の規定について
法改正に伴い、就業規則の改定についてお悩みの人事担当者もいるでしょう。厚生労働省では、育児・介護休業等に関する規定例を提示しています。
また、育児・介護休業申出書についても社内様式例を提示しています。2024年11月に更新されていますので参考にされてください。
それでは法改正の概要について1つずつご案内していきます。
(1)介護離職防止のための個別周知と意向確認(義務)
個別周知と意向確認の内容
介護に直面したことを申し出た従業員へ、介護休業、介護両立支援制度等の周知と、制度利用の意向確認が義務化になります。
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等の利用の申し出先
- 介護休業給付に関すること
上記に加えて、介護保険制度についても周知することが望ましいとされています。
今回の法改正は、仕事と介護を両立していくことが目的です。
職場の制度に加えて、介護保険サービスの利用は両立に向けた重要な手段であることから、介護保険制度についても詳しく案内していくことが望まれるでしょう。
方法は下記の4つです
- 面談(オンライン面談も可)
- 書面の交付
- FAXの送信 (※労働者が希望した場合のみ)
- 電子メール等の送信 (※労働者が希望した場合のみ)
制度利用を円滑に行うことが目的です。各制度の目的や利用例を交えて説明しましょう。
また、制度を利用しづらいような言動は行ってはいけません。
例えば、過去に制度利用した人はいない、キャリアへの影響をほのめかす、周囲への影響を考えてほしい、などは利用しづらくなる可能性があります。
個別周知と意向確認に関するQ&A
- 制度周知は社内イントラなどに掲載し、年1回、従業員へ周知するなどでも代替できますか?
-
個別の周知が必要です。申出があった際に、個別に周知と意向確認を行う必要があります。
- 申し出の方法は口頭でもよいですか?
-
申し出の方法は書面に限定していませんので口頭でもよいです。
職場にて独自の方法を設定しても問題ありませんが、申し出をしづらくなるような煩雑な方法は避ける必要があります。
また、独自の方法を設定していても、口頭で申し出があり、介護に直面したことを確認した場合も対応する必要があります。 - 申し出先はどこに(誰に)行えばよいですか?
-
事業者ごとに決定してください。予め申し出先を決め、社内に周知しておくことが望ましいでしょう。
- 個別の周知・意向確認は人事部が行う必要がありますか?
-
人事部でなくても、事業主から委任を受けていれば、所属長、上司などが行っても問題ありません。
但し、その場合は、実施する所属長や上司へ制度の趣旨や実施方法等を十分に周知しておくことが重要です。
説明する所属長や上司が理解していないと、従業員が不安に感じたり、制度を利用しづらくなる可能性があります。 - 介護に直面しても申し出がない場合はどうしますか?
-
申し出があった従業員への措置となります。
申し出があった際に制度周知と意向確認を実施してください。ただし、申し出しづらいような環境をつくらないように注意しましょう。
(2)介護に直面する前の早い段階(40歳の年)で情報提供(義務)
介護に直面する早い段階(40歳の年)で情報提供を行います。(1)「個別の周知と意向確認」との違いは、情報提供のみであり、意向確認はありません。
また、個別周知、一堂に集めての周知、どちらでも構いません。
介護に直面する前の早い段階(40歳の年)とは
介護に直面する前の早い段階(40歳の年)とは下記のいずれかです。
- 40歳に達する日(誕生日)の属する年
- 40歳に達する日(誕生日)の翌日から起算して1年間
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等の利用の申し出先
- 介護休業給付に関すること
上記に加えて、介護保険制度についても周知することが望ましいとされています。
今回の法改正は、仕事と介護を両立していくことが目的です。
各制度の目的や利用例を交えて説明しましょう。
職場の制度に加えて、介護保険サービスの利用は両立に向けた重要な手段であることから、
介護保険制度についても案内していくことが望まれます。
方法は下記の4つです
- 面談(オンライン面談も可)
- 書面の交付
- FAXの送信
- 電子メール等の送信
介護に直面した時に制度利用を円滑に行うことが目的です。制度利用をしづらいような言動は行ってはいけません。
例えば、過去に制度利用した人はいない、キャリアへの影響をほのめかす、周囲への影響を考えてほしい、などは利用しづらくなる可能性があります。
介護に直面する前の早い段階での情報提供のQ&A
- 情報提供は個別に行う必要がありますか?
-
(1)「個別の周知と意向確認」とは異なり、早い段階での情報提供が目的となります。
例えば、年1回、対象者を一堂に集めて周知しても問題ありません。 - 実施方法について、介護に直面した従業員への個別の周知と意向確認と同様に、「FAXの送信」「電子メール等の送信」は従業員から希望があった場合に限りますか?
-
早い段階(40歳の年)での情報提供については、実施方法について、先述の1~4のいずれも問題ありません。
「FAXの送信」「電子メール等の送信」についても従業員から希望がなくても実施できます。
(3)介護離職防止のための雇用環境の整備(研修の実施、相談窓口の設置等)(義務)
介護離職防止のための雇用環境の整備の内容
介護休業や介護両立支援制度の申し出が円滑に行われ、仕事と介護を両立できるよう下記のいずれかを実施することが義務付けられます。
- 従業員へ研修の実施
- 相談窓口の設置
- 事例の収集・提供
- 利用促進に関する方針の周知
上記のうち複数実施が望ましい、とされています。
1~4まで1つずつご案内します。
従業員へ研修の実施
介護休業、仕事と介護の両立支援制度に関する研修を実施します。各制度の趣旨、活用方法、また介護保険制度についても周知しましょう。
従業員が両立できることを目的としています。事前に必要な準備、社内外の相談窓口、介護に直面した時の初動、介護保険サービスの活用のポイント、介護離職防止に向けた考え方など従業員が両立していくために必要な知識を得られる内容にしていくことが望まれるでしょう。
- 研修は、全従業員へ実施が必要ですか?
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研修は、全従業員への実施が望ましいです。全従業員への実施が難しい場合、少なくとも、管理職については研修を受けたことのある状態にする必要があります。
- 研修は従業員を集め、まとめて実施してもよいですか?
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研修は一堂に集めて実施しても問題ありません。
- 動画によるオンライン研修でもよいですか?
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動画によるオンライン研修でも可能です。但し、受講したことがわかるよう受講管理が必要です。例えば、資料や研修動画を社内イントラへ掲載、案内するだけでは研修を実施したとは言えません。もしくは、管理職向け研修を実施、見逃し配信も行う。見逃し配信も含めて受講者レポート提出を行うことで要件を満たすことができます。また、eラーニング動画研修として実施もよいかもしれません。
- 従業員の平均年齢が若く、介護に直面する従業員が少ないと感じる場合も実施が必要ですか?
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祖父母を介護するなどヤングケアラーがいることも考えられます。従業員の年齢に関係なく実施してください。仕事と介護の両立研修は、平均年齢が若い企業も実施していく必要があります。
相談窓口の設置
介護休業、仕事と介護の両立支援制度に関する相談窓口を設置します。
相談窓口について、部署名、メールアドレス、電話番号などを具体的に示しておくとよいでしょう。
相談窓口は、社内、社外のどちらでも構いません。従業員の親の介護の詳細について助言する必要はないと考えられます。専門的な相談については地域包括支援センターやケアマネジャーを紹介していくことが考えられます。
職場の介護休業に関する制度、両立に向けた制度利用、介護保険の利用方法(要介護認定の申請方法等)などをご案内し、どうすれば両立していけるかを考えていきましょう。
事例の収集・提供
自社の従業員の介護休業取得や介護に関する両立支援制度の利用の事例を収集し、従業員へ周知します。社内イントラへの掲載、社内報への掲載、介護に関する研修における事例紹介などが考えられます。
利用促進に関する方針の周知
介護休業制度、仕事と介護の両立支援制度等の利用促進に関する方針を従業員へ周知します。事業者は仕事と介護の両立を支援していくことを明確にしていきましょう。 周知の方法は、口頭、メール等で知らせるとともに社内イントラや社内報などで周知していくことが考えられます。
以上、仕事と介護の両立のための雇用環境の整備についてご案内してきました。
1~4の内、複数実施が望ましいとされています。
職場の状況にもよりますが、介護不安や介護負担を軽減し、従業員が仕事と介護を両立する職場づくりに向けて効果的と考えられるものを実施していきましょう。
(4)介護休暇を取得できる従業員の要件緩和
介護休暇は、労使協定の締結により継続雇用期間6か月未満の従業員は利用の対象外とすることができました。この法改正でこの条件が廃止されます。2025年4月以降は、雇用期間に関係なく従業員が介護休暇を利用することができます。但し、週の所定労働時日数が2日間以下の従業員に対しては、今まで通り労使協定の締結により、介護休暇の利用対象外とすることができます。
(5)介護する労働者に対して講ずる措置にテレワークを追加(努力義務)
要介護状態の対象家族を介護する従業員がテレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務となります。
さいごに
経済産業省によると、介護離職や介護不安、介護負担による経済的損失は約9兆円にもなると試算されています。仕事と介護の両立問題は従業員のキャリア継続と企業の経済活動の双方に影響します。今回の法改正をきっかけに、企業の重要な人材戦略の1つとして仕事と介護を両立しやすい職場づくりを進めていきましょう。今回は個別周知と意向確認に加えて、両立のための雇用環境の整備が義務化となります。
仕事と介護の両立には、下記のような流れがスムーズと考えられます。
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制度を利用して仕事と介護を両立
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(3)「仕事と介護の両立のための雇用環境の整備」については、人事部の負担から考えると、方針の周知、相談窓口の設置、だけでも複数実施となり法対応としては問題ありません。
しかし、目的を軸に考えると、まずは①方針の周知、②研修の実施、③相談窓口の設置の3つを実施。その後、④事例を共有してもよい従業員が現れたら、事例共有と進んでいくのがよいのではないでしょうか。
その結果、介護離職防止や介護不安や介護負担が減少され、職場の生産性低下を防ぐことに繋がります。仕事と介護の両立支援の目的、期待する効果を考えて複数実施されていくことが望ましいでしょう。
経済産業省では「仕事と介護の両立支援に関する経営者のためのガイドライン」を公表しています。
制度以外でも企業が取り組むべき事項が具体的に示されていますので、そちらも確認されてはいかがでしょうか。
「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」について (METI/経済産業省)
セントワークス株式会社は、企業の「仕事と介護の両立支援」をサポートしています。職場の仕事と介護の両立施策にご支援が必要な企業様はお声がけください。(セントワークス株式会社は全国に介護事業所を展開するセントケア・ホールディング株式会社(プライム上場)の100%子会社です。)